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『始末できるか原発の放射能』
この本には、以下のような「再版のための前書き」を掲載しています。
【再版にあたっての前書き】 福島第一原発では東日本大震災(二〇一一年三月十一日 太平洋三陸沖震源 M9)とその津波により、大量の放射性物質の放出を伴う国際原子力事象評価尺度レベル7(最も重い評価、「深刻な事故」)の原子力事故が発生した。
福島第一原発には1〜6号機の沸騰水型軽水炉(BWR)があり、事故当時は、1〜3号機が稼働中、4〜6号機は定期検査で停止中であった。又、各原子炉建屋内には使用済み燃料プールがあり、冷却を要する使用済み燃料が格納されていた。地震で受電用鉄塔が二系統とも液状化現象により倒壊して、直後に非常用ディーゼル発電機が起動していた。しかし、約1時間後に到来した一五mの津波により、一〇m高の敷地にあった1〜4号機は、冷却用ポンプや非常用電源設備などが冠水し長時間の全交流電源喪失を招いた。この時、非常用バッテリや炉の蒸気圧による隔離時冷却システムが動作したが、結局電源は早期に復旧できず冷却不能となった。
この結果、1・3号機は、原子炉や燃料プールの燃料棒が高温になり溶融すると共に、水蒸気と接触した燃料被覆のジルコニウムによる水の還元反応により発生した水素により原子炉建屋上部が水素爆発で損傷し、高濃度の放射性物質が放出された。2号機は、建屋側面及び上部に開口部ができたため建屋の水素爆発は免れたものの、原子炉格納容器の損傷が確認されている。 4号機は炉内には燃料はなかったが建屋が爆発により損傷した。プール内の使用済み燃料の崩壊熱による水素発生も疑われていたが、五月十六日現在、3号機内で発生していた水素が放出作業の際に4号機にも流れたとの見方がでてきた。 5・6号機は十三m高の敷地であったため深刻な状態にはならなかった。(1-6) 事故により大気中に放出された放射能の推定値は、四月十二日発表の原子力安全・保安院による暫定評価によると、ヨウ素131とセシウム137について放射能ポストの測定値から逆算したところ、ヨウ素換算で、保安院推定では三七万テラ(一テラ=一兆)ベクレル、安全委員会の推定では六三万テラベクレルとのことであった。これは、チェルノブイリ原発事故の推定放出量、五二〇万テラベクレルの一割程度であるとしている(1)が、この値には海や地下へ放出された放射性物質や滞留している汚染水は入っていない。汚染水は五月十日現在九万トンある。このうち2号機には高濃度の二万五千トンの汚染水があり、この汚染水だけで四〇万テラベクレル(五月十一日付 朝日新聞朝刊)となり、大気放出量と合わせるとチェルノブイリ事故の約二割が放出されたことになる。 なお、福島第一原発の使用済み燃料のウランの総量は一七六〇トン(6)であり、炉内のウラン総量は約四七〇トン(1)であるため、合計二二三〇トンとなる。これはチェルノブイリの一八〇トンのおよそ十二倍である。 また、3号機では二〇一〇年一〇月より使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを混ぜたMOX燃料を用いるプルサーマルを行っていた。事故により敷地内でプルトニウム汚染が確認されている(2)。3号機では、三月十四日に核燃料プールで核分裂連鎖反応が起こり(7,8)、ウラン、プルトニウム他の大量飛散を起こした。米国においてもこれら核種を検知した(9)。 二〇一一年五月初めの段階で放射性物質の放出量は減少しつつあるものの、各炉は不安定な状態であり、終息の見通しは立っていない(3,10)。 福島第一原発では、年間七〇〇体(一体=燃料棒六三本=ウラン一八四kg、ウラン計一三〇トン)の使用済み燃料が発生する。使用済み燃料は、原子炉建屋の燃料プールに移され、十九ヶ月以上冷却される。その後、敷地内の共用使用済み燃料プールに移され、建屋プールから通算して数年間冷却される。その後、使用済み燃料キャスク(大型:直径2.4m 長さ5.6m 重量百十五トン 燃料アセンブリ五二体)に入れられる。年間十四個のキャスクが敷地内の保存建屋や六ヶ所村へ運ばれ、七年以上(五十年を限度)冷却後、再処理されることになっている。しかし、使用済み燃料の再処理は滞っており、今回の事故にあたって、専門家からの「福島第一原発が抱える重大な危険の一つは、数十年分の使用済み燃料棒が津波に襲われた施設の冷却プールに詰め込まれていることによるものだ」という指摘がある(11)。 すなわち、青森県北部の六ヶ所村の再処理施設は、高レベル廃液のガラス固化試験が難航しており、建設開始から十七年経った今も試験稼働中である。このため、六ヶ所村の使用済燃料受入貯蔵施は、二〇一一年一二月時点でウランにして二八〇〇トン余り在庫しており(容量三千トンの九十三%)、ほぼ満杯である。このため第二ビルの建設により、合計五千トンの容量とする計画である。 また、高レベル廃棄物の最終処分の見通しも立っていないため、六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターには、二〇一〇年一二月の時点で一三三八本在庫しており(主にフランスからの返還分、容量一四四〇本の九九%)、満杯である。このため増設工事を行って容量を二八八〇本に倍増する予定である。 この様な状況のため、全国の原発には使用済み燃料が溢れそうになっており、特に福島第一原発では、先に述べたように、各原子炉建屋の燃料プールの他、追加設置した共用の燃料プールや使用済み燃料キャニスターの保存施設に燃料が一七六〇トン(容量二千百トンの八四%)もあり、今回の事故をより危険で深刻なものとしている(12,13)。 放射能汚染のために、強制避難区域だけで九万人(二十km圏の警戒区域八万人+高濃度の汚染が確認された計画的避難区域一万人)が避難対象になっている。それ以外の地域でも住民への汚染が懸念されており、漁業、農業、畜産業などへの打撃も甚大である(2,14)。 幼児が放射性ヨウ素による被曝で甲状腺ガンへの高感受性を持つ事は知られている(15)。当初、放射性物質の大量放出時にその拡散予測が公表されず(16)、また、日本気象学会理事長が会員が予測を出すことを抑えた(17,18)。被曝が起こる前の幼児への安定同位体ヨウ素剤の投与がなされなかった。プルトニウム汚染の疑いを含め、各地で大量の放射性物質累積降下があり(19)、千葉県でも牧草汚染が認められる(20)。各地の水道水のヨウ素131汚染や、千葉、茨城でも見つかった母乳のヨウ素131汚染(21,22)等、乳児への影響が心配される(23,24)。高放射線量地域でも外部被曝線量を年間20ミリシーベルト以下に抑える事を目処に小学校等が開校された。国際放射線防護委員会(ICRP)代表からの勧告(25,26)の最大値を採用したとの事だが、これは事故直後の公衆被曝限度基準であり、収束に向けては年間1ミリシーベルトの基準(27)を尊重すべしという意見は強い(28,29)。一九九〇年ICRP勧告は二〇〇七年に改訂されているが、基本的な考えは変化していない(30,31,32)。低レベル被曝影響の直線モデルは否定されていない。低レベル被曝における影響の最近の報告は今中によって纏められている(33)。低レベル・内部被曝に関して、欧州放射線リスク委員会(ECRR)2010勧告が規制を強く主張している(34)。 汚染状況の推定図が出されている(35)。チェルノブイリ事故のケースでは、セシウムはほとんど土壌表面〜深さ十五センチメートルまでに留まる(36)。地域汚染の影響はチェルノブイリ事故を教訓にする事になる(37)が、長年月後の健康影響はまだ、不明だ(15)。 この大事故の当初から、東京電力や政府からの事故原発の状況や放射能漏れ等に関する情報量が少なく、開示が遅いという批判が内外から上がっている。これらの情報開示のあり方も含めて今後、今回の原発事故への対応状況を検証する必要がある。 私達はこの度の事故を受け、二十二年前に初版発行した本書の内容を検討し、指摘した放射性廃棄物の問題点はなお存在していることを強く感じ、内容はそのままとして再刊を目指すものです。なお、放射能に関する単位系が当時と変わったため、初版の一キュリーは三七〇億ベクレル(1ピコキュリーは0.037ベクレル)と、また、一レムは一〇ミリシーベルトと読み替えていただきたい。 再版にあたりまして、出版社(株)ステップ、竹島茂様の強いご助力に感謝いたします。 震災、津波災害で被害を受けられた方々に哀悼の意を表すとともに、原子炉事故の安全な収束と子供達へ大きな健康的影響の出ないことを祈るものです。 元「科学者による国際平和週間」筑波委員会有志 [二〇一一年五月] ● 〈参考情報〉 1.「東日本大震災における原子力発電所の影響と現在の状況について、1.地震及び津波の発生と事故の概要(5月6日付、随時更新)」、東京電力、2011.05.06 2.「東日本大震災における原子力発電所の影響と現在の状況について、2.福島第一・第二原子力発電所の現況(5月16日付、随時更新)」、東京電力、2011.05.16 3.「東日本大震災における原子力発電所の影響と現在の状況について、3.事故の収束に向けた道筋(5月6日付、随時更新)」、東京電力、2011.05.06 4.「福島第一原子力発電所事故対応に向けて」、日本原子力技術協会 5.「福島第一原子力発電所から大気中への放射性核種(ヨウ素 131、セシウム 137)の放出総量の推定的試算値について」、内閣府 6.「[東北地方太平洋沖地震] 福島第一原子力発電所の状況」、日本原子力産業協会 7.「プルトニウム隠し」、ダンディ・ハリマオ、2011.04.12 8.「3号機建屋の水蒸気爆発時に出た黒煙について」、ダンディ・ハリマオ、2011.04.30 http://kaleido11.blog111.fc2.com/blog-entry-488.html 9.「米国でプルトニウム・ウランが検出される:過去20年間で最大値!プルトニウム239やウラン238が大幅上昇」、2011.04.29 10.「東電:福島第一原発廃炉に30年、1兆円以上−専門家らが試算(1)」、ブルームバーグ http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920000&sid=aY8DAmUhrYuk 11.「原子力産業を悩ます使用済み核燃料の問題、地層処分に動き出すスウェーデン」、 2011.04.06(Wed) Financial Times (JBPRESS) 12.「Integrity Inspection of Dry Storage Casks and Spent Fuels at Fukushima Daiichi Nuclear Power Station」、東京電力、2010.12.16 13.「六ヶ所再処理工場の現状と今後の見通しについて」、日本原燃株式会社、2011.2.21 14.「「放射能情報サービス」、(放射能、水道、雨、福島原子炉の状況、拡散予測、保安院の資料などの各ページの情報は政府機関や都道府県発表の公式データに基づき、非営利個人のボランティアにより作成されている。即時更新) 15.「チェルノブイリ原発事故後の健康問題」、山下俊一、2000.02.29 16.「放射能拡散情報公表が遅れた背景に「政府の初動ミス隠し」」、 Newsポストセブン、2011.04.26 17.「東北地方太平洋沖地震に関して日本気象学会理事長から会員へのメッセージ」、2011.03.18 18.「3月18日付けの理事長メッセージについて」、2011.04.12 19.「【2011年4月24日更新】都道府県別放射性物質累積降下量:首都圏にも大量の放射能が降っている」、2011.04.24 20.「千葉の牧草放射能検出」、 朝日新聞、2011.04.29 21.「母乳、放射能検査結果(第一次)」、 常総生協組合資料、2011.04 22.「母乳、放射能検査結果(第二次)」、 常総生協組合資料、2011.04 23. http://ni0615.iza.ne.jp/blog/entry/2218263/ 24.「日本における放射線リスク最小化のための提言」、ドイツ放射線防護協会(和訳: 松井英介、他)、2011.03.20 25.「Fukushima Nuclear Power Plant Accident」、Claire Cousins et.al、2011.03.21 http://www.icrp.org/docs/Fukushima%20Nuclear%20Power%20Plant%20Accident.pdf 26.「Fukushima Nuclear Power Plant Accident〔邦訳試案〕」、@team_nakagawa http://www.u-tokyo-rad.jp/data/fukujap.pdf 27.「ICRP Publ. 111 日本語版・JRIA暫定翻訳版による」、ICRP勧告翻訳検討委員会、2011.04.20 http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6,15092,c,html/15092/20110420-192047.pdf 28.「公衆の放射線防護レベル緩和について国際放射線防護委員会ICRPの忠告(三月二十一日)について」、吉岡斉、2011.04.03 29.「官房参与が辞任・記者会見資料を全文掲載します」、2011.04.29 30.「ICRP勧告(一九九〇年)による個人の線量限度の考え」、2004.03 31.「ICRP2007年勧告について」、原子力安全委員会事務局 32.「ICRP2007年基本勧告に基づく外部被ばく線量換算係数の計算」、 遠藤章 http://www.rist.or.jp/rist/rnews/47/47s3.pdf 33.「低レベル被ばく影響に関する最近の報告より」、 今中哲二、 第106回原子力安全問題ゼミ 34.「ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告」、ECRR2010翻訳委員会 35.「【図解・社会】東日本大震災・放射線量(推定値)の分布図(2011年4月11日)」 http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_soc_jishin-higashinihon20110411j-07-w430&rel=y&g=tha 36.「原発災害10年・20年後はこうなる:IAEA「影響なし」の嘘、低濃度放射能でも健康被害が起きていた(過去のNHKスペシャルより)」、大鬼、2011.04.04 http://onihutari.blog60.fc2.com/blog-entry-19.html 37.「地表の放射能 拡散せず」、 竹中敬二、朝日新聞夕刊3版6頁、2011.04.13
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