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2003年3月1日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.207 Saturday Edition
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http://jmm.cogen.co.jp/
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▼INDEX▼
■ 『from 911/USAレポート』 第81回目
「無気味な静けさ」
■ 冷泉彰彦 :作家(米国ニュージャージー州在住)
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■ 『from 911/USAレポート』 第81回目
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「無気味な静けさ」
二月の最終週になりました。イラク問題や、テロ警報、そして各地での悲惨な火事の
あった先週に比べると、どこか静かな週です。米軍は予備役を更に1万6千人追加動
員したり、トルコへ基地使用の圧力をかけたり、戦争の影は日に日に色濃いものがあ
ります。ですが、不思議な落ち着きの感じられた週でした。
そんな中、リベラルな芸能人たちは「ワシントンへの電子デモ」と言って、Eメール
やファックスなどを政治家たちへ送って反戦を訴えようという行動に出ています。旗
振り役は、俳優のマーチン・シーンが買って出てCFなどにも登場しているのですが、
人気番組『ウェスト・ウィング(邦題は、ザ・ホワイトハウス)』で合衆国大統領を
当たり役にしたシーンが、役の口調のままで反戦を訴えているのが話題を呼んではい
ます。
話題にはなっている、でも燎原の火のように反戦の声が日に日に高まっているかとい
うと、そうでもないのです。何をやっても、ある程度のところで止まってしまい、そ
れ以上に雪崩を打つような動きにはならないのです。今回の芸能人達の反戦運動も、
CF放映への賛否両論が出たりメディアの扱いは及び腰です。
芸能人を代表してスポークス・パーソンを買って出ているのが、女優でコメディアン
のジャニーン・ガラファロで先週から今週にかけて各局を一巡して「反戦アジテーショ
ン」を繰り広げていました。ですが、CNNなども「芸能人が知名度を利用して反戦
運動をするのは是か非か」という番組の作り方になるのです。そうしたタイトルにし
て、保守派の論客を揃えてガラファロに対抗させるスタイルで、バランスを取らざる
を得ないのでしょう。
ガラファロといえば、ラブコメ映画の『好きと言えなくて("The Truth About Cats
and Dogs")』で有名ですが、本業は一人語りの漫談で、鋭い社会風刺をするスタイル
は大学生に人気があります。彼女に言わせると、「イラク攻めは石油利権の争奪戦で、
そのための戦闘行為は全て殺人」、「イラクを民主化するなんてチャンチャラおかし
い、だって、今のアメリカは民主主義じゃないもの」更に「メディアは戦争で視聴率
を稼ぐのを待ってるのよ。特にFOXニュースはホワイトハウスの犬」と威勢が良い
のですが、結局はリベラルなコメディアンの「いつもの」口舌という扱いに終わって
います。
考えれば、彼女のコメントなどは、数週間前にならとても許されない激しいものです。
では、どうして、ここへ来てTV出演が許されているのでしょうか。国連前のデモ隊
と警官隊の衝突なども、以前なら報道されなかったものです。警官隊が暴力を振るっ
ている画像などもTVでオッケーなのですから、私は驚きましたし、ちゃんと怒りの
コメントがつくのです(朝のabc)から、以前の報道よりは、はるかに「まし」に
見えます。
反戦デモのスローガンも、まともに紹介されるようになりました。「この戦争のスポ
ンサーは、シェブロン石油、ボーイング、ロッキード・マーチン、そしてCNNでし
た」であるとか「マッド・カウ(狂牛)病」にひっかけて「マッド・カウボーイ病」
というもの、そして私の気に入っている「戦争?そんな余りに20世紀的な・・・」
というものまで、まるで60年代の反戦デモのようなプラカードですが、TVでも紹
介されるようになってきたのです。
ここへ来て、欧州をはじめとする世界中での反戦運動が活気づいている、その勢いが
アメリカの報道姿勢を緩めているのでしょうか。フランスやドイツの世論、あるいは
英国の世論などの影響が、良い意味でアメリカのメディアに勇気や冷静さを与えてい
るのでしょうか。どうも違うようなのです。何か、無気味な静けさのようなものがあ
り、その静けさの中で、たまたま今週はリベラルな言動が許されている、それも不思
議なバランス感覚の中で、そんな気配があります。
音楽界にも似た動きがあります。今回のグラミー賞の授賞式は、私は見逃したのです
が、サイモンとガーファンクルが本当に久々に一緒に『サウンド・オブ・サイレンス』
を歌って場内が総立ちになるなど、「反戦」ムードに包まれていたといいます。です
が、賞の方は下馬評とは違ってジャズ界からノラ・ジョーンズが八冠を独占する結果
になりました。ジョーンズの歌は、繊細でありながら落ち着きがあり「売れる」要素
は確かにあります。ソプラノではなく、しっとりとしたアルトの声も魅力的ですし、
インドのシター奏者ラビ・シャンカールの娘という話題性も無視できません。
ですが、これもバランス感覚なのでしょう。反戦色の全面に出たショーのまま、ブルー
ス・スプリングスティーンに多くの賞を出すわけには行かなかったのではないでしょ
うか。丁度、式の直後に配達されてきた『エンターティメント・ウィークリー』では、
スプリングスティーンはハッキリと現政権への反対を述べています。「今の政府は9
11を口実に何でもしようとしている。イラクを破壊しなくたって、もう経済はメチャ
クチャ、無理な減税のおかげで困ってる人を救うこともできない。こんなのはアメリ
カじゃない」
典型的なリベラルの意見ですが、『ボス』の愛称で親しまれているスプリングスティー
ンの口からはっきり言われると迫力があります。その分、賞の方は「ノンポリ」のジ
ョーンズに集中させて、音楽界なりのバランス感覚を、ということだったのでしょう。
同じ娯楽産業では、映画界が三月の授賞式目指してオスカー・レースがたけなわです
が、今週ディズニー系列のミラマックス映画はミュージカル映画『シカゴ』の作品賞
獲得を狙ってCFの派手なキャンペーンを張っています。確かに評判の良い映画なの
ですが、退廃したシカゴのショー・ビジネス界を描いた画面が、どこか今週の雰囲気
に合っているのです。「戦争が始まると見る気にならないでしょうから、今のうちに
どうぞ」という興行側のメッセージも感じられて、余り良い気分ではありません。
映画の興行で言うと、今こそ万人が見るべき『戦場のピアニスト』などは、今まで一
度も拡大公開になっておらず、公開二ヶ月で1千3百万ドル(15億円強)にとどまっ
ています。この作品、2月15日の週末には日本ではトップを取りましたから、いず
れ日本の興行収入がアメリカを抜くのではないでしょうか。ちなみに先週まで二週間
トップを維持したのは、ベン・アフレックが盲目のスーパーヒーローを演じた『ディ
アデビル』というアクション映画でした。
CBSの名物キャスター、ダン・ラザーが23日の月曜日にバクダットに乗り込んで、
フセイン大統領との単独会見を行いましたが、これもこうした無気味な静けさ(サイ
レンス)の中、ならではの現象と言えるでしょう。会見の内容は、日本でも報道され
ていると思いますから詳細に及ぶことは避けますが、亡命を否定したこと、ブッシュ
との会談を衛星回線で世界同時中継しようという提案をしたこと(ホワイトハウスは
即時拒絶)などが主要な内容でした。
会談の終わりにラザーは「もうこれでお会いすることもないのでしょうね」という恐
ろしい台詞を口にすると、サダム・フセインは一瞬顔をこわばらせたかと思うと、苦
笑しながら「全てはアラーの神の思し召しでしょうな。最終的にはイラクとアメリカ
両国の国益が合致して、無駄な血が流されないことを願うのみです」と流していまし
た。
私には、25万の大軍の攻撃準備を整えつつある国のジャーナリストが、「命を狙う」
と政府が公言している相手国の元首に対して「生きて会うことはない」などというの
は、何とも血なまぐさく、やりきれない思いがしました。基本的にはラザーの不遜な
発言と緊張した表情に対して、希代の梟雄と言われるだけあって、フセインのハラの
座ったトークが対照的に思えました。
ですが、放映から一夜明けると、ラザーのインタビューは賛否両論の大騒ぎになりま
した。まず、ホワイトハウスのアリ・フライシャー報道官が「フセインの一方的なプ
ロパガンダになってはいけない。自分かパウエル国務長官か、ライス補佐官の誰かが
同じ番組に出演して、フセインの主張への反論を言わせるよう、CBSに申し入れた
が、拒否された」として、「あの報道は、一方的だ。殺人者、嘘つきの弁明を電波で
流すのは許せない」と怒っていたそうです。
「ホワイトハウスの反論を拒否」したCBSの説明はこうです。「アメリカ人に取っ
てホワイトハウスの発言は、毎日いつでも聞くことができる。フライシャー報道官の
定例記者会見はニュースに流れるし、大統領のコメントだって申し入れがあれば、三
大ネットワークはいつでも取り上げている」だから、今回は不要と判断したのだそう
です。これはCBSニュースのヘイワード社長の判断ということです。
翌日のラジオのトークショーなどもかなりの騒ぎになっていました。"WOR New York"
の保守系の番組では、「ラザーのパセティック(悲壮)なインタビューは最低だった。
フセインがいかに悪人かを知らない視聴者には、誤解を与えるひどい放送だ。視聴率
稼ぎの金もうけ主義にも程がある」とまるで「売国奴」扱いです。確かに「もうお会
いすることはないかも知れません」という下りは悲壮と言えば悲壮でしたが。
FOXニュースの『ハニティ&コルムズ』という番組では「利敵行為」であるとか
「嘘つきの言葉を報道するのはジャーナリズムではない」というラザーへの非難の大
合唱、そしてビル・オライリーに至ってはラザーの名前すら挙げずに、「前線に兵士
が展開している時期に、敵将の演説を流すなどもってのほか」と言い切り、他の反戦
運動家などと一緒に「悪しき市民」への告発をせよと、まるで昔の共産主義国の報道
のようでした。
そんな中、インタビューの放映24時間後にCNNの『ラリー・キング・ライブ』に
出演したラザーは、厳格に中立姿勢を崩さないキングに対して、淡々と今回の報道の
意義を説明していました。「私は一介のジャーナリストです。ですから、ハリウッド
の芸能人にしても、小さな町の町長さんにしても、合衆国大統領にしても、そこにニ
ュースになる材料があればインタビューに出かけます。まして、この時期にサダム・
フセインですよ。話があれば取材するのが当然でしょう」と自信満々でした。
「私は、アメリカ市民の一人ひとりが、今度の戦争が必要かどうかを問うために、私
のインタビューを利用してくれれば良いと思っています」とラザーは、実に格好良い
ことを言っていました。炭疽菌騒ぎの時は命を狙われた一人とはいえ、ラザーは純粋
なリベラルでも何でもありません。パレスチナ紛争の取材では、メジャーなTV局の
中では最もイスラエルよりの報道をしていましたし、タリバンが敗走をはじめた時期
に、陥落したばかりのカブールに入って「私はアフガンには思い入れがある。ここま
で貧しく見放された人々に、ようやく希望が見えた」と感情的なレポートをしていた
のもラザーです。
私は、このラザーのフセイン会見で、厭戦ムードが広がるなどという甘い観測はして
いません。ですが、この「静かな週」の何とも言えない無気味な雰囲気に相応しい事
件ではありました。では、何が無気味なのでしょう。国連の日程を無視して、米軍が
バクダットに奇襲をかけるのでしょうか。可能性はゼロではありません。イラクを膠
着状態にしておいて、北朝鮮の問題で危険な舌戦に突っ込んでゆくのでしょうか。ど
うもその徴候が濃厚にあります。
いずれにしても、この静寂は恐ろしい感じがします。では、私たちはどう対抗したら
良いのでしょうか。それは情報を集め、言葉を交わすことを続けるしかないように思
います。情報というのは、ミサイルがどこにあるとか、アルカイダのメンバーが泊まっ
たかどうか、という細かな「諜報活動の結果の材料」ではありません。もっと大局的
なもの、例えば、フセインのバース党とは何か、クルド人の歴史はどうかとか、メソ
ポタミアの地における帝国主義の歴史などの情報が役に立つでしょう。勿論、91年
の湾岸戦争と、その前のイラン・イラク戦争のことも振り返っておく必要があります。
北朝鮮についてもそうです。朝鮮戦争の戦史や、在日朝鮮人の歴史、1988年のソ
ウルオリンピック以前には日本のどの社会でも苛烈であった韓国・朝鮮人への差別の
問題を振り返るのも重要でしょうし、これに中国とアメリカの軍事外交政策の駆け引
きの歴史を付け加えるのも大切です。軍政から民政へと激しい変革を体験した韓国の
歴史を振り返ることも有益でしょうし、94年の核危機とKEDO合意の枠組みのこ
とも一人ひとりが振り返っておくべき問題でしょう。
そうして、これら二つの地域の紛争の歴史を振り返りますと、今回の危機の構造が見
えてきます。イラクという膨大な石油埋蔵量を有する地区を、何がなんでもコントロー
ルしたいアメリカ、中国との冷戦を戦うために日本と韓国を使い潰してでも、あるい
は分断してでも北朝鮮危機を使ってプレゼンスを維持したいアメリカ、そんなアメリ
カの悪い面ばかりが目につきますが、同時にそれぞれの地域にも問題はあります。
共和制か王制か、アラブの大義かイスラエルとの共存か、石油依存か新産業か、中東
の不安定には中東ならではの対立があるのでしょう。アジアも同じです。世界へ向け
て高付加価値、低価格の製品を供給する責任がまだまだありながら、お互いの国家の
正当性を尊敬し合わないために、アメリカの軍事プレゼンスという傭兵を「切れない」
情けなさは、アジアの側の根深い病気と言って良いのでしょう。
紛争は相互の問題としてあり、誰にでも自身の生きる土地の自身の生き方の中に紛争
に巻き込まれた部分があるのでしょう。紛争を深刻化させて喜ぶ、困った時代の流れ
が確かにあります。ですが、この僅かな静寂の時に、自分自身の日々の生き方の中に
紛争の材料と、その和解への糸口を探してみたいものです。
丁度、この週の「静けさ」を利用するように、世界貿易センタービルの跡地開発案が
発表になりました。ドイツ在住の建築家を中心とするグループの作という最終案は、
跡地の「地下空間」を犠牲者の追悼のために残したまま、それを取り囲むように世界
最高のタワーを建設するというものです。
私は、この開発案には余り心躍るものを感じませんでした。倒壊したタワーと同じ高
さならともかく、もっと高い「世界最高」というのは、かえってイヤな感じがします。
何よりも摩天楼の輪郭(スカイライン)が汚くなるでしょうし。それに、『グラウン
ド・ゼロ』の地下空間を残すというのも、妙な気がします。犠牲者の方達の遺体の一
部は、確かに地中にあるのでしょうが、何となく彼等は天上にいるような気がするの
です。
何も特定の宗教うんぬんというのでなく、例えば昨年春の「光の塔」が感動を呼んだ
ように、追悼は空に向かってというのが自然なように思うのです。追悼の要素を地中
に押し込めて、空へ向けては「世界一」を目指すというのは、違うように思います。
それよりも何よりも、911以降の動きに押し流されるようにイラク攻撃準備という
事態まで来た現状では、ツインタワーの再建というのは時期尚早のように思われます。
昨年の「光の塔」の点灯式は3月11日でした。もうすぐ一年が立ちます。あの時か
らみて、世界は予想もしなかった方向に来てしまいました。
冷泉彰彦:
著書に
『9・11(セプテンバー・イレブンス)―あの日からアメリカ人の心はどう変わったか』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093860920/jmm04-22
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まぐまぐ: 19,003部
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